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arizona ハナシのダイジェスト

プロ・マニアによる
役立ち情報満載の知恵袋コーナー。

猫のお話

記憶の始まりってどこからなんだろう【前編】

気がついたら僕の周りには僕と同じ模様の子がたくさんいたような気がする。

白くてそこそこ大きくこぎれいな箱の中に僕はいた。

だけど、他の子は元気すぎてみんなどこかに遊びに行っちゃうんだ。

僕は、それどころじゃなくて、お腹は減ってるし目は霞む、喉は渇くし、

まぁ、あん時は本当に辛かったよ。

時々誰か通りがかるんだけど、なにせ道端の草むらの中だから誰も僕に気づいてくれないんだ。まいったよ。

本当に死ぬかと思ったさ。

そんな2日目の朝、人間の子供が通りがかったんだ。

僕は叫んだね。必死で鳴いたよ。ご飯ちょうだい!って。

喉は乾いてるけど、ちぎれんばかりの声で鳴いたよ。多分人生の中で一番大声を出したんじゃないかな。

そしたら、神様はいるもんだね。その人間の子供たちの中の一人が僕に気づいたんだ。

3人くらいいたかな。みんなで上から僕を覗き込むんだ。

僕はこれ以上ないくらいの“猫なで声”でアピールしたね。最初で最期のチャンスだ。

見せてやりたかったよ、あんな可愛くなく僕は二度とお目にかかれないよ。

3人のうちの一人が僕を抱え上げたんだ。子供の細い指が僕の痩せた肋骨を雑に刺激して痛かったんだけど

そんなこと言っちゃいられない。頼む!僕を連れてってくれ!

子供だったら悪い人間じゃないだろう。いや、今の僕にそんな事言ってる余裕はないな。

 

その子供達は僕を抱えたままゴチャゴチャと緊急会議を行ってるようだった。

きっと僕をどうするのか話し合ってるんだ。

そして、僕を抱えてたその子供は、今度は箱ごと、僕を小脇に抱えて他の子供らと歩き出したんだ!

やった!ご飯にありつけるぞ!僕の名演技の勝利だ!

そしてそのうち子供たちは一人ずつ別々の道に分かれていき、僕を抱えたその子供はあるマンションの中に入っていった。

すぐにわかったよ。きっとこの子供の家だなって。これでごはん食べれるかなって思ったよ。

しかし待てよ、このままこの子供の家に連れられても、この子の母親に怒られるかもしれないな。

よくあるパターンだ。まだまだ安心できない。人間界も猫界も、ママってのは怖いもんだ。

これはもうひと演技必要だな。

 

ガタンと鉄のドアを引く音が建物中に響き渡った。

なんかいい匂いがするぞ!

その子供は僕を抱えたまま、そのいい匂いがする部屋に駆け込んだ。

いい匂いはさらに強くなって、その部屋には髪の長い大人の女の人が立っていた。

ママだ!次の難関を越えなきゃ!

僕はもう一度ありったけの声を振り絞り、ニャ〜ン!って叫んだよ。

ほら、一瞬怖い顔に見えたママの表情が優しく崩れたんだ。

もうひと押し!ニャ〜ン、ニャ〜ン!

ママがその子供と何か話してる。そして、僕の目の前には温かいミルクが差し出された。

やった!ママにも気に入ってもらえたんだ!

お腹がペコペコの僕は、とにかく目の前のミルクをむさぼるように飲み尽くした。

正直、あまりうまくはなかったけど贅沢は言ってられない。

 

ママはその子供を「ヒロ」って呼んでいた。この子、ヒロっていう名前なんだ。

ママとヒロは僕の頭や体を撫で回しながら話をし、あちこちに電話してるようだった。

僕はご飯にありつけただけで嬉しくて、ママにも嫌われてないようだし

本当に神と、ヒロと、ママに感謝したよ。

きっと今日からここが僕の家になるんだぜ、きっと。

その日の夜、僕はこの家で暖かくて柔らかい布の上でゆっくり寝ることができた。

こんな気持ちいいところで寝るのは初めてだ。さっきまでの白い箱とは大違いだよ。

僕は今までの疲れもあって、その夜は泥のように眠り続けた。

何もかも放り出して眠り続けた。

知らない人が見たら、死んでしまったと思われたかもしれないな。

 

中編に続く…。

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